土木資材だったひし形金網が、なぜ「デザイン素材」になったのか
学校のフェンス、高速道路脇のネット、崖崩れ防止の柵──ひし形金網は長く「インフラを守る裏方」でした。共和鋼業株式会社も1968年の創業以来、落石防護やネットフェンスなど土木領域を支える専門メーカーとして成長してきました。
しかし土木市場の縮小とともに、「このまま“縁の下の力持ち”だけでいいのか?」という問いが生まれます。そこで同社が選んだのが、「安全・安心を守る素材」を「心地よさをつくる素材」へと再定義するチャレンジでした。
GOOD DESIGN AWARD「ニットフェンス」が生まれるまで
企画フェーズ:問いはいつも「金網で何ができるか?」
転機となったのが、東大阪発のオープンイノベーションやデザイナーとの協業です。「金網で何ができるんやろう」という素朴な興味から、建築家やプロダクトデザイナーと議論を重ねる中で、「曲がる・たわむ・編める」というひし形金網ならではの特性が、インテリアにも使えるのではないかという仮説が生まれました。
そこから構想されたのが、GOOD DESIGN AWARD2019を受賞した「ニットフェンス」。安全柵でありながら、しなやかで柔らかな印象を持つ“編まれたフェンス”です。
試作フェーズ:若手・中途が担った「翻訳」と「検証」
デザイナーから提示されるスケッチやCGを、実際の線材径・網目・加工条件に落とし込むのは、まさに現場の腕の見せどころです。若手・中途の社員はここで、
- デザイン意図を読み解き、製造条件に「翻訳」する力
- 試作を通じて強度・たわみ量・安全性を検証する力
- コストと意匠性のバランスを取る判断力
を実務の中で身につけていきました。CADの操作や図面読解だけでなく、「これなら施工現場で扱える」「この曲げ半径なら量産可能」といった“現場目線”が求められる工程です。
展示会〜受賞フェーズ:素材を「思い出してもらう」ための発信
完成したニットフェンスは、JAPAN SHOPなどの展示会で発表され、多くの建築家・インテリアデザイナーの目に触れました。ブースでの説明や施工事例の紹介、メディア取材への対応など、発信の現場にも若手が積極的に参加します。
ここで鍛えられるのは、
- 専門用語を使いすぎず、素材の魅力を伝えるプレゼン力
- 来場者の反応からニーズを汲み取るヒアリング力
- 展示後の問い合わせ対応やサンプル出荷に至るまでの段取り力
といった「コミュニケーションとしてのものづくり力」です。こうした発信が積み重なり、GOOD DESIGN AWARDの受賞や「大阪製ブランド」「JAPAN SHOP IDM AWARD」など、数々の評価へとつながっていきました。
グラフィックフェンスやNETBENCHに見る“再定義”の連鎖
近畿大学との産学連携から生まれた「グラフィックフェンス」や、JIDAデザインミュージアムセレクションに選ばれた「NETBENCH」は、「仕切る」から「見せる」「楽しむ」へと役割を変えた象徴的な例です。
大学キャンパスや美術館、中之島の店舗空間などで採用されるプロセスでは、設計打ち合わせや施工検証に若手が同席し、図面と現物がどう結びつくのかを間近で学びました。土木・建築・アートの現場が一気通貫で見えることは、町工場ではなかなか得がたい経験です。
ものづくり×デザインで伝わるポートフォリオ/職務経歴書のポイント
「アイデア」と「実行力」をセットで見せる
ものづくりとデザインの両方に関わりたい人ほど、成果物の写真だけで自己PRを終わらせがちです。共和鋼業のプロジェクトに関わるメンバーの視点から言えば、次の3点が伝わると評価しやすくなります。
- 課題:何を解決したかったのか(例:安全柵をもっと開放的にしたい)
- プロセス:どんな検討・試行錯誤をしたか(スケッチ、試作、失敗例も含めて)
- 結果:どこまで形にできたか(導入実績・評価・学び)
デザイン経験がなくても、改善提案や品質トラブル対応など、「自分なりのアイデアを出し、まわりを巻き込み、最後までやり切った経験」を具体的に書くことで、実行力は十分に伝わります。
職務経歴書に書ける「現場で活きるスキル」
- 図面・仕様書を読み取り、現物に落とし込んだ経験
- 異なる立場の人(営業、設計、職人、顧客)との調整経験
- 試作〜量産で条件をチューニングした経験
- 展示会・プレゼン・問い合わせ対応など対外的なコミュニケーション経験
このあたりは、金網に限らず「素材メーカー×デザイン」の現場で大きな武器になります。
工場見学・カジュアル面談を最大限活かすチェックリスト
工場やオフィスを訪れる機会があれば、次のポイントを意識して見ると、その会社で働く自分を具体的にイメージしやすくなります。
- 金網がどう編まれ、どう検査されているか(工程の流れを自分の言葉で説明できるか)
- 試作エリアやX-Labのような開発スペースがどう使われているか
- 社員同士が相談しやすい雰囲気か、現場の声が企画に届いていそうか
- 展示品や受賞プロダクトの「裏話」をどこまでオープンに話してくれるか
面談では、「このプロジェクトで最初に苦労した点は?」「若手はどの段階から関われますか?」といった質問を用意しておくと、自分が挑戦できる余白を具体的に把握できます。
ひし形を編み、未来の風景をつくる仕事
ひし形金網は、これまで工事現場や高速道路の向こう側を「見えない場所」にしてきたかもしれません。けれど今、その金網がファサードや家具、アート作品、さらにはメタバース空間のモチーフとして、新しい風景を生み出し始めています。
土木から建築・インテリア・アートへ──素材の“再定義”の現場には、企画・試作・展示・発信のすべてに関わるチャンスがあります。ものづくりとデザインのあいだで仕事をしたい人にとって、ひし形を編む現場は、きっと次のキャリアを編み直す場にもなり得るはずです。